要するにもう少し唸らせてくれと

 ブリンの「知性化戦争」が大分いいところまで進んできたんですが、読めば読む程、「人類も早く知性化されるべきだよね」と思う今日この頃です。というか俺も知性化されたい(激ぉ)。
 いやぁ、やっぱり面白い。戦争と言っても戦闘自体はゲリラ戦レベルの、あくまで「知性化時代の」戦争という所が物語のポイント。前二作以上に踏み込んで語られる、知性化社会の物の見方が実に興味深いのですよ。

 毎日そんなのを読みながらやればそりゃキツくもなろうよ、という事で「Mass Effect」の話。
 当然ですがネタバレ進行。ま、大した話じゃないですよ。
 このゲームも要素レベルでは面白そうなネタは転がっている訳です。あくまでFPSエンジンをベースにしたためにメインの連中は全て人型の宇宙人で構成されてしまったけれど、むしろ脇役連中にこそ面白いのが多いこの辺参照)。環境の違いで耐圧服を着込んだヴォルスや、多様な表現力をコミュニケーションの礎にしているため多種族相手には「感情を要約して前置く」という独特の会話スタイルを取るエルコー、(リンク先には書いてないけど)ハナーという多足のゲル状(?)生物もまた独自の倫理観を持っていて面白い。ここまで書いて、脇の種族全部かよ!と思ったのは内緒(ぉ)。残念ながら彼等はメインシナリオには絡む事は無く、サブシナリオや道端の会話でその特殊性が垣間見られる程度。サブシナリオ自体、ただ「揉め事の仲裁を行う」「依頼されて戦地に赴く」という些細なお使いイベントでしかない。せめて何かしらのテーマ性を持ってシナリオを書いてくれれば題材も活きてくると思うのだけれどね。まぁ前者の仲裁の中には彼等独自の観念が見えてくる場合も無くはないんだけど、最終的な帰結が「話をうまくまとめて主人公の善人/悪人ポイントを稼ぐ」得点問題にしかならないので、どうしても主題らしき主題に結び付かない。エルコーなんかは弄れば本当に面白そうなんだけどね。実に勿体無い。
 まぁ作品内の時代がまだ「地球人の船に何故異星人が!」などというチープなナショナリズムの次元なので、せめてstartrekの惑星連邦並のものが成り立った後年の続編に期待するしかないよね、という感じなのです、はい。
 またメイン連中も、(どうしても人間型のイメージから抜け出せていない点がネックには感じてしまうけど)、異星人としての独自性は個々に与えられてはいる。ただやはりそれらもシナリオレベルで絡んでくる事は殆ど無い。それというのも「6人中2人を選択して連れ添う」自由選択式のシステムがネックで、どうしても彼等が主体的にシナリオに絡むことが出来ない(一応例外中の例外はあるけれど、親子の情愛イベントにそれ以上の深みは望めないというもの)。単発レベルでコメントを挟む事でキャラ毎の演出くらいは出来ているけれど、ぶっちゃけ誰が喋っても話は変わらない、ただの茶々入れ。こんな事では満足なシナリオなど書ける筈もなかろうと。まぁ言ってしまえば「主人公とその他の楽しい仲間達」というシナリオでしかなく、更にその主人公も出自や性別が選べるのでこれといった実体を伴わない。そんな如何様にも展開する柔軟性は、いわゆる「自由度」などと言えば聞こえは良いけれど、実のところ芯の無い量産テキストの山にしかならないんだよね、そんなもの。

 ここまで書いた所で、プレイ済みの人間には「ヴァーマイアのクローガンの話はどうした」と思われるところ。ここは例外的に唯一キャラクターのバックボーンがシナリオに絡んでくる部分。ただ言ってしまうと、「やっとキター」と思っていたそれが物凄い駄目展開だったからこそ、更に憤慨しているんですけどね。
 クローガンというのは言ってみればクリンゴンというかサイヤ人かな? 元々好戦的な種族が軽い知性化みたいな扱いで武器を持たされ戦争に駆り出された経緯を持つ傭兵種族。更にその後に起こした大反乱の罰として、出生率を大幅に低下させる遺伝性ウイルスを植え付けられ緩やかな絶滅に向かっているという。「治せる医療技術も持たない」、むしろ「病気を治そうと思う奴もいない」彼等の殆どは「戦って死ねばいい」という愚かな玉砕主義。しかしそんな彼等の中にも後世を憂う者もいる訳で、主役陣の一人もその一派。
 そこに敵のボスが「治療法を開発させ、自らの私兵として育てている(いずれ大軍団を形成する)」という事態が判明し、その研究施設を即刻破壊するという任務に直面してしまう。当然そのクローガンの仲間は「我々の未来を踏みにじるのか」と猛反対。ここでゲームの合間に彼ときちんと話し込んでおくと、実の父親である玉砕主義の派閥リーダーとの確執や、それを「前時代的」と憤るなど、そんな彼の脳裏に秘めた心情も察せられるようになっているところ。だから、「嗚呼、これは難しい倫理問題か?」とワクテカしながら進めようとしたら、どういう訳かその場の雰囲気は「私事にとらわれ軍規を乱す」危険分子扱い。仲間の誰に問いかけても彼の苦悩を理解する者は一人も居らず。その後の選択肢も実に喧嘩腰で「逆らうなら殺す/諦めさせる」の二択のみ。何かこうもっと無いんですか先生。まぁそもそもの突っ込み所として、医療研究なら研究データだけ持って行けばいいじゃんとか、一度果たせた研究なら次もあるとか、そこまで思い詰める要因も無さそうですが。だからこそ身勝手止まりなのかもしれないけどね。そもそもそうじゃなくて、「一種族の命運」という大きな天秤を掲げたのなら、反対の皿にはそれ相応の品を用意するべき。例えば、その後に発生する別の「仲間の見殺し選択イベント」をこちらに絡ませて、一族の命運か大切な仲間かという選択肢ならまだ色々悩み甲斐もあると思ったものなんですがね。なんかもうこのステージの中で「要らない奴を一人選べ」と言われているだけのようで、容赦なく一番嫌いな奴を見殺しにしました、はい。いやはや(苦笑)。

 結局、バックボーンを活かせるようなイベントってのはこれくらいのもので。シナリオの程度は分かって貰えるんじゃないかと思う。
 ラスボスに至っては、開発者インタビューでは「彼には彼なりの信念がある」みたいに言っていたのに、(超ネタバレですが)「私は洗脳されてなどいない!」と散々強情張っておきながら、結局は「インプラント埋め込まれて良い気持ち」みたいな、ただの操り人形止まり。FPSのラスボス戦を構成する為のシナリオに使われただけのお粗末な人物像には涙すら流れない。かつて「廃品回収」と罵った「リングワールド再び」の最終戦を彷彿とする情けなさですよ。というかそのものだ(笑えない)。

 嗚呼、駄目だ、書けば書く程ボロが出てくる。
 面白そうな設定をちりばめる所までは出来てるんですよ。駄目SFの典型ですけど。それをどうお話にするか、という奴ですね。